うつ病休職から4ヶ月ほど経過し、僕は復職するかどうかを悩みましたが、復職してもまたうつ病になって再休職する気がしたので、思い切って大学院へ進学することにしました。
今回はその大学院試験日の話です。
うつ病休職により全く活動をしなかった僕が久しぶりに活動らしい活動をしたため、準備ができていなかったのか、心構えがなっていなかったのか、腕時計を持っていくことを忘れてしまいました。
時計がないことから、早く回答を終わらせることに焦りケアレスミスをしてしまい、でも結果オーライだった話です。
なんか足りないけど試験会場へ
研究室訪問もして教授から研究室入りの承諾を得て、願書も時間がかかったけれどしっかり提出し、受験票も届いたのであとは受験するだけです。まだ療養中で動かない頭と体をなんとか動かしてここまで来ました。
受験科目は論述と面接の2つのみ。久しぶりにリクルートスーツを着て革靴を履き、鉛筆と消しゴムを購入して試験会場へと向かいました。
「忘れ物はないよね?」と不安でしたが、こういう時はいつも不安なので、「いつもの不安になるやつだよね?」と思いこみ、忘れ物については考えないようにしました。
なんか足りていない気がするのですが、何が足りないのかがわかりません。
名古屋から大学のある神戸までは電車で3時間くらいです。3時間の間「何か忘れてない?」とソワソワしていては、身が持ちません。だから、外の景色に集中していました。出来るだけリラックスできるようにと、遠い景色を見ていました。
もし、この時に「あっ!時計忘れてる!」と気づけば、神戸に到着してから購入するなどいくらでも対策できたはずでしたが、ラジオを聴くことに集中していましたので全く気付きませんでした。
試験会場へは問題なくスムーズにたどり着きました。僕が4年間大学生として通った母校の大学院へ進学するのですから、間違えるはずがありません。比較的早く到着したので、文学部のラウンジで緊張感と共に時間を潰しました。
大学院入試のための勉強を一切していない僕とめっちゃ勉強してそうな周囲
午前中に英語の試験、続いて論述試験があり、昼を挟んで面接試験でした。
僕はうつ病で休職中ではありましたが、会社に所属しているので社会人枠で受験しました。社会人枠だと英語の試験が免除されるというありがたい制度がありました。そのため、他の受験者の方が英語の試験を受けている間も、僕はキャンパス内でボケーっとして時間を潰していました。
ここで時計の存在に気づいたら、まだ間に合ったことでしょう。大学周辺にあるコンビニを探せば腕時計くらいあるはずですし、大学の事務室に理由を話して借りることもできたかもしれません。
しかし、全く気づきませんでした。ボケーっと時間を過ごしながらも、だんだんと緊張に襲われ、お腹がゾクゾクと痛くなりました。この緊張するという感覚は一番嫌いな感覚です。この緊張感に意識が向いてしまい、時計のことには気づけませんでした。
やがて、英語の試験が終わり、僕は試験会場の教室へ入室しました。試験会場の教室は僕が講義を受けた中でもっとも狭い教室でした。教室内には先ほど英語のテストを受けていた受験生が7名いて、次の筆記テストに備えていました。僕の席だけ空席でしたので、自分の座席がすぐに見つかりました。念の為、机の番号と受験票の番号が同じかを2回確かめてから着席しました。
周りの人はなにやらノートを取り出して、一生懸命読んでいます。「みんなしっかり勉強してるんだなぁ」と思いながら、一方の僕はなにもせずにぼーっとしていました。僕は今日に備えて勉強はしていません。大学卒業時までに獲得した知識だけで戦えるだろうと根拠のない理由で勉強はしませんでした。
周りの雰囲気に押しつぶされそうでした。大学院入学のための勉強なんてしていない自分自身が恥ずかしく、焦りと不安を感じました。
突然1人いなくなった事件に意識が向く
事件というほどのものではないのですが、長いこと人との交流がなかった僕には大事件でした。
5分後に筆記試験が開始されるというタイミングで、僕の前に座っていた人が突然片付けを始めました。
試験に備えて、荷物を整理しているのかと思ったのですが、荷物を持ったまま外へ出て行きました。そして、いつまでたっても戻ってきませんでした。
「筆記試験免除なんて制度があったかな?」
ありません。そんな制度はありません。でも、全然帰ってこないのです。
「英語のテストが全然できなかったのかな?それで諦めたのかな?いや、それともこの教室の雰囲気に耐えられなくて諦めたのかな?」
僕は自分のことではなく、彼のことが心配になりました。そして、彼がなぜ突然教室を出て帰ってこなくなったのかを想像していました。この事件の様々な可能性を想像するという作業のおかげで緊張感から少しだけ逃げることができましたが、まさか自分がトラブルを抱えているとは考えてもいませんでした。
呑気に「あぁ、あの人は諦めたんだなぁ〜。僕は最後まで頑張ろう」などと考えていました。
試験が始まる直前に時計がないことに気づき焦りすぎる
試験開始直前に、試験官が「はい、では全部しまって、筆記用具だけ出してください」みたいなことを言うと全員が指示に従ってノートとか本を片付けました。その時に他の受験者が腕時計を机に置いているのを見かけました。
「・・・・」
「あれ?」
「あれれ?」
「あれれれれ?」
体中を何かが駆け巡る感覚がありました。気持ち悪い感覚です。
こういう時、人は意外に冷静です。僕も冷静でした。まず、なにが起きたのかを把握することにしました。そして、考えるまでもなくわかりました。
「腕時計を忘れた・・・。」
次に、ではどうするのかを考えました。教室内を見渡しましたが、時計がありません。前にいる人たちの机に置かれた時計が見えるかもしれないと思いましたが、腕時計は小さいので針も文字盤も見えません。
「この状況。どうする?」
考える暇もありません。僕が1人パニックの最中に、問題用紙と回答用紙が配られているいます。脳みそをフル回転させました。4ヶ月以上使っていなかった脳みそをフル回転させて一つの結論にたどり着きます。
「とにかく、早く記述して時間内に終わらせるしかない!」
筆記試験は60分でしたが、30分で回答してしまえば腕時計がなくても大丈夫です。とにかく、筆記試験時間の60分より早く終わらせるしかないのです。時間オーバーするようなペースで記述していたらダメなのです。
試験開始とともに大慌てで受験番号と名前を書き、試験問題を読み始めました。
大慌てで回答し無事終了?
どんな試験問題だったか内容は忘れてしまいましたが、問題用紙には環境系の問題、交通系の問題、建築系の問題、経済系の問題、経営系の問題など合計で15問の論述問題がありました。これらの問題から1つ選んで回答するという試験で、僕は学部時代に研究していた経営系の問題が一番答えやすそうだと感じ、その問題を選ぶと、全盛期のミハエルシューマッハよりも速いかもしれない速さで回答を始めました。
超マッハスピードでどんどん書き上げていきましたが、こういう論述の場合は書き始める際にある程度設計してから書き始めないと構成がおかしくなったり、後から説明を追加したりする必要が出てきます。ですが、腕時計がないので早く回答をしなければと思っていた僕は設計を考えずにどんどん字を書いていきました。
すると「うっ・・・」という事態に遭遇するわけです。「この説明をし忘れてる」とか、「この部分は冒頭に持ってくるべきだった」とか・・・。
鉛筆で記述していますので、消す時には消しゴムで消します。消すだけで時間がかかります。新しい文章を書くときは手書きです。時間がかかります。コピーしてペーストができないので、文章の順番とか、段落とかを考えずに書き始めてしまうと、修正に時間がかかってしまうのです。
消しゴムのカスが邪魔に感じられるほど、消したり書いたりを繰り返してなんとか回答を終えました。
その時点で、何分経過したのかわかりません。
大慌てすぎて問題を読み忘れ!再スタートへ
ホッとして、問題用紙をゆっくりと眺めました。このまま試験が終われば、あとは面接だけです。
ですが、全身に剣山が突き刺さったかのような衝撃が襲います。
「えっ・・・まさか・・・」
「まさか・・・」
「まさか・・・」
問題用紙の一番最初には「あなたが志望するコースの設問から1つを選んで記述せよ」みたいなことが書かれていました。僕が希望するコースは経済コースですので、経済コースの設問から1つを選んで回答しなければならないわけです。経済コースの設問は3問あり、その中から1つを選んで回答する必要がありました。
しかし、僕は「あなたが志望する分野の設問から1つを選んで記述せよ」の部分を完全に読んでいませんでした。問題用紙の中にある設問からどれでもいいから1つ選んで記述すると勝手に思い込んでいました。そして、本来なら経済コースの問題に回答しなければならなにのに、僕は経営コースの問題を回答しています。
「あぁぁあぁ、やばい・・・」
何が起きているのかわかりません。何分残っているのかもわかりません。流石に30分以上もたっていないと思いますが、久しぶりの集中だったことを考慮すると予想以上に時間が経過しているかもしれません。集中していると時間が経つのが速いと言いますからね。
大慌てで先ほど書いた回答を全て消していきました。試験官の方はかなり驚いたんじゃないかと思います。終わってのんびりしていると思った受験者が鬼の形相、いや半泣き状態で全部消していくのです。
なんとか全部消すと、回答用紙が汚くなっていました。すでに何度も書いたり消したりした回答用紙です。100%綺麗に消せているわけではないので、以前書いた文字が何となく浮かび上がっているような回答用紙になってしまいました。そこから大慌てで経済分野の問題を読みました。
が、頭に入ってこない。
自分の鼓動がドクンドクンと聞こえます。この非常事態に生命の危機を感じたのかアドレナリンが大放出され、手の震えが止まりません。字が書けないほど、興奮しているような状態になっていました。
まず、経済分野の問題3問から回答する1問を選ばなければなりませんが、どの問題も似たり寄ったりで「この問題なら一番自信がある!」というものがありません。どれでもいいから答えなければと先頭の問題を選択し、大慌てで回答を始めす。
もちろん、回答を記述する前に構成を考えることはしませんでした。「先に構成を考えないと、さっきみたいに何度も何度も消しゴムで消したり書き直したりする羽目になる」とは思いましたが、もう時間がないかもしれないのです。
涙はこぼしませんでしたが、泣きながら記述しました。目にはいっぱい涙が溜まっていて、瞬きを何度も何度もして涙がこぼれないように努めました。
試験終了はそれからまもなくでした。試験官が「はい、それでは時間になりましたので試験をやめてください」と言った時点で、50%も回答できていませんでした。まさに途中の状態で回答用紙を提出しました。スポーツじゃないのに、息が切れていました。
「僕、何やってんだろう・・・。いつまでこんな凡ミスやってんだろう・・・。」
その後
午後から面接試験がありましたが、筆記試験での出来事で精神的に疲弊し、昼食の時間帯は自己嫌悪に陥っていました。ご飯も食べなかったと記憶しています。それくらいの失敗をしたわけです。
しかし、その一方で、面接は想像以上に無難にこなすことができました。一言で表すと楽しい面接でした。面接官の2名の教授は終始笑顔で話してくれて、午前中の筆記試験のことを忘れるくらいに楽しかったです。
根拠はないですが「まぁ、合格するんじゃないかな?なんとなるやろう」と思っている自分がいました。だって、面接であんなに楽しく受け答えをしたんですよ。面接官の教授も終始楽しそうに話していましたし。
それから1週間もしないうちに、その大学院から分厚い書類が送られてきました。その分厚さから、中身を確認せずとも合格だとわかりました。中には合格通知書と入学手続き書類が入っていました。地方私立文系大学だったから合格できたのだと思います。
無事、合格できたわけですが、筆記試験の成績のことは今でも何も聞いていません。あんな不完全な回答で合格するわけはないので、教授会とかで問題になったんじゃないかと思いますが、僕には関係ないことなのでもうどうでもいいです。
「終わったことだからもうどうでもいい。大学院生になったらどこに住もうかな。」
この日起きた出来事は、うつ病休職中だったから起きた出来事かもしれません。また、そうではないかもしれません。どっちにしても、活動をすることが久しぶりで、突然大学院試験という外の世界に出たので、こうなって当然だったのかもしれません。とりあえず新しい一歩を踏み出せたことと、新居に想像を膨らませながら寝ました。
今ではなく、将来のことを考えている自分に気づいて、「本当に回復してんだなぁ」と思いました(休職中に大学院を受験するのはありなのか、なしなのかわかりません。一般的にはNGと思う人の方が多いと思います)。
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