夜行バスに乗り遅れサービスエリアに置き去りにされかけた人を目撃した話

初めて訪問する方へ。うつ病時代のまとめ「社内ニートでうつ病になり休職のまま退職したサラリーマン時代のブログ」にて初めの記事から読むことができます。

これは僕がうつ病になり休職した際に、福岡の実家を生活の拠点としながらも通院時だけ名古屋に2日ほど戻る生活をしていた頃の話です。

福岡と名古屋の往復は夜行バスを使っていたのですが、その夜行バスでの事件の話です。

事件と言っても大きな事件ではありません。今回の事件は置き去り未遂事件だったわけですが、僕は僕らしい理由のせいで、そのことに気づいたにもかかわらず添乗員さんに事実を伝えられませんでした。

観光バスが夜間に走るから夜行バス

WILLER EXPRESSのようなリクライン二ングができて、寝顔を隠すことができるキャノピーみたいなものが座席に付いている、まさに寝る専用の座席のバスがこの世に存在します。

でも、そういうバスは今も当時も珍しいと思います(今は、だいぶ増えていますが、10年前はそんなにありませんでした)。

どちらかといえば、「観光バスが夜間に走っているだけ」と表現できるバスが夜行バスでした。

見た目も内装も座席も全て観光バスと同じ。違いは夜間に走るので車内は照明を落としているくらいの違いです。寝る専用の座席ではないので、体力的にすごくしんどかったですが、価格が安いのでそうしたバスを選んでいました(とは言っても、今でも夜行バスはすごく安く、価格に関しては当時とあまり変化がないようにも思います)。

福岡と名古屋を往復する僕も夜行バスを選んでいたわけで、名古屋の心療内科受診を終えたその日も名古屋駅の新幹線口側からバスに乗り福岡を目指しました。

サービスエリア休憩はバス車内で待つ派

夜行バスはかなりの距離を走りますので途中で複数回の休憩を取ります。3回くらいあったと思います。

ですが、僕は休憩中にバスの外に出ることはしませんでした。

なぜ休憩中にバスの外へ出ないのか?

やったことがないことをやる勇気やパワーが僕にはないからです。

一度でも休憩中にバスの外に出たことがあれば、休憩のたびに外へ出たかもしれません。でも、バスの外に出る際のルールや休憩から帰ってきてバスに乗り込む際のルールを知らなかったので、バスの外に出られなかったのです。

ほら、みなさんのお住いにも市バスなどが運行していると思いますが、乗車や降車の際に整理券を取ったりお金を払ったりしますよね?

そんな感じで、夜行バスでも降車時には添乗員さんに「外に出ます」とか、乗車時には「帰ってきました」とか報告するなどのルールがあるのかな?と思っていたからです。そして、そんなルールないだろうなとも思っていました。

つまり、こういうことです。

  1. ルールがあった場合、僕が何もせずに降車や乗車をすればルール違反です。
  2. ルールがない場合、僕が降車や乗車時に添乗員さんに自分のことを報告するのは変な人です。

どう考えてもそんなルールがあるわけないのですが、選択肢の1か2を選ばなければならないのなら、僕はどちらとも選ばなくていい「バス車内で待つ」を選択するのです。

「はぁ?何言ってんだ?」という人もいると思いますが、うつ病になり少し元気になってきた頃の僕は自分を守るために様々な可能性を考える癖があり、この降りる降りないの話もその一つです。

というわけで、この日もサービスエリアでの休憩ではバス車外へ出ることはなく、バスで再出発を待っていました。

隣の人が戻ってきていないけれど・・・

やがて、休憩時間が終わると、添乗員さんが「1, 2, 3, 4・・・」と人数を数え、最終的に「全員揃いましたので出発いたします」みたいなことを言うとバスの扉が閉まる音がしました。

しかし、僕はそれどころではありませんでした。

なぜなら、隣の人がいないからです。

いや、さっきまで間違いなく隣の人はいたんです。休憩前まではいたんです。休憩時にバスの車外へ出て行きました。そして戻ってきていないのです。

わずか5秒くらいの間に様々な可能性を考えました。

  1. もともと隣に人はいなかった。
  2. 隣の人は、このサービスエリアが目的地だった。
  3. 空いていた他の座席に移動した。

1と2は可能性が低そうですが、3はありえそうです。

「よかった。どこかに移動したんだ!と思いたい」と思いました。

ここで添乗員さんに対して「すみません、隣の人が戻っていないのですが!」なんて言えません。

なぜ「すみません、隣の人が戻っていないのですが!」と言えないのか?ですが・・・。

夜行バスの中で「すみません、隣の人が戻っていないのですが!」と言ったことがないから、それをやる勇気やパワーがないからです。

選択肢は2つなのです。

  • 「すみません、隣の人が戻っていないのですが!」と言う。
  • 何もしない。

喜んで後者を選びます。そして、僕は後者を選びました。

乗り遅れた人がバスを追いかけるのを目撃したけど・・・

ふと、去り際のサービスエリアの建物の方向を見ました。バスが駐車場エリアを抜けようとしているとき、あるものに気づきました。

人がこちらへ向かって一生懸命走っているのです。

「僕の隣の人?」

根拠は何もありませんが、そう思いました。

状況からすれば、走ってくる人は間違いなく僕の隣の座席の人です。だって、休憩前まで僕の隣にいて、休憩からまだ帰っていなくて、今走り出したバスに向かって走っている。

ですが、本当にそうなのかの確証がありません。

再び様々な可能性を考えました。

  1. 彼は隣の席の人ではなく、バスが走る方向に彼の目的地があり、バスを目指しているわけではない。
  2. 夜行バスを見るとバスに向かって走り出す修正の持ち主。
  3. 違法行為であるにもかかわらず高速道路を使った24時間マラソンを実施している。

2と3の可能性はまずないでしょう。1はあり得ると思います。

でも「そうだ!彼はこのバスに用があるわけじゃない。たまたま彼の目的地の方向が一緒なんだ」と思い込むことにしました。

消灯された夜行バスの中で突然「すみません、こっちに向かって走ってくる人がいるんですが!」なんて大きな声で言えません。

  • 添乗員さんに伝える勇気やパワーもありません。
  • 添乗員さんは出発前に人数を確認していました。
  • 隣の人は別の空席に移動しただけかもしれません。

ここでも選択肢は2つなのです。

  • 「すみません、こっちに向かって走ってくる人がいるんですが!」と言う。
  • 何もせず寝たふりをする。

みなさんの予想通り、僕は後者を選択しました。

無事にバスはその人を回収したけど・・・

サービスエリアの出口にあるガソリンスタンドの手前くらいで夜行バスは突然止まりました。

ドアが開く音がし、「はぁはぁ」と息を切らした人が夜行バスに乗り込んできました。

「すみません」と謝る添乗員の声や少しザワザワする車内、そして僕の方に近づいてくるその人。

その人は息を切らしたまま僕の隣の席に着席しました。

そうなのです。僕の隣の人は夜行バスに戻っていなかったのです。僕の隣の人が先ほど一生懸命走っていた人なのです。

彼が戻ってくる前にバスが出発してしまい、それに気づいた彼は一生懸命走ってバスを追いかけ、たまたま運転手さんが走ってくる彼に気づき、緊急停止、無事にバスに戻ってこれたわけです。

さすがに、隣の席の僕が「隣の席の人がいない!」と気づかないはずがありません。実際、気づいていましたし・・・。でも、何も行動しませんでした。何も行動しなくて済むように、都合のいい可能性にしがみついていました。

どんな顔をして彼を見れば良いのかわかりませんでしたので、寝たふりをしました。

そして、福岡に到着するまで寝たフリを続けました。